iPad mini と Kindle Paperwhite を買うきっかけになった、話題の電子書籍『Gene Mapper』(藤井太洋 著)。

読み始めたらあっという間に読み切ってしまった。

その感想;
SF小説として、面白い。充分楽しめた。


以下;ネタバレになるんでご注意ください;

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読んでいて、まず思い浮かんだのが、
マイクル・クライトンの『恐怖の存在 』 。

環境保護団体が、自らの主張を知らしめるために環境テロをしかける、っていう作品の構図はとても似ている。
『恐怖の存在』では地球温暖化だったのが、『Gene Mapper』では遺伝子組み換え作物に当たる。

まぁ、環境保護=善 とは必ずしも言えないのは、日本だと鯨をめぐる過激な団体の存在などでかなり知られているが、それでも SFらしい着想ではある。
そして、これは東日本大震災後の混乱を明らかに意識してのことだろう。


さらに、遺伝子コード(配列)とコンピュータコード(プログラム)の類似性を押し進めて、遺伝子操作とコンピュータプログラミング(主に Web関連)を同じ次元で扱ったのも面白い。
「見立て」の楽しさというか、知っているひとには「そういうことね」と思わせるサービスになっている。


そして、もうひとつのポイントは「拡張現実」の普及した社会の描写。外見からは分からない位進化したデバイスを全員が身につけるほど拡張現実が普及し切った社会で、登場人物たちの振る舞う様子がよく描かれている。

例えば、拡張現実をONにする動作が、コンタクトレンズや網膜への直接投影ではまばたき2回だが、電脳メガネ(?)の時代のずり上げる動作がメタファーとして残っていたり。
素手で戦うときも、なかなか拡張現実をOFF にしない奇妙さだったり。なかなかウマい。

未来になっても結局人間の考えること、感じること、行動は同じだ、という話しもいいが、拡張現実が普及した社会での人々の考え方、感じ方、行動はこんなにも違ってしまう、という話しを読むのはとても刺激的だった。
なにしろ、携帯電話というものの普及だけで、ここ10〜20年の社会がこんなにも変わったことを実感しているのだから。


最後に、作中の遺伝子組み換え作物についても、一ひねりも二ひねりも加えてある。
初期の(現代の)遺伝子操作作物(GMO)の惨事から、蒸留作物の登場、そしてデザイン作物への進歩。

遺伝子組み換え作物の被害者が遺伝子組み換え作物を擁護し、逆にそれに反対する団体が被害者たちを差別的に弱者としか見ない、などなど。
 

デビュー作で、個人出版で、電子書籍だけで、開始早々のKindleでいきなりベストセラーで、と内容以前に話題豊富な作品だが、内容だけでも今年読んだ小説のうちで、最もワクワクした作品だった。


作者の次回作に期待。
で、作者ブログによると、いろいろと控えている様子。楽しみ。
・「SFマガジン」2013年2月号;Gene Mapper世界関連の短編。
・セルフ・パブリッシング;『Orbital Cloud』
・さらに、もうひとつ



Gene Mapper (ジーン・マッパー)Gene Mapper (ジーン・マッパー)
著者:Fujii Taiyo
販売元:Taiyo Lab
(2012-07-12)
販売元:Amazon.co.jp


恐怖の存在 上 (1) (ハヤカワ文庫 NV ク 10-25)恐怖の存在 上 (ハヤカワ文庫 NV ク 10-25)
著者:マイクル・クライトン
販売元:早川書房
(2007-08-08)
販売元:Amazon.co.jp