フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略
去年の年末に読み始めて、やっと読了

<ビジネス5分道場>
「買っても読みたい無料の知恵」土井英司(本よみうり堂)
 - 読売新聞
 2009.12.14

がきっかけだったけど;
「(これ)ほど、人に教えたくない本もない」
「年末の読書はこの一冊で決まりだろう」

と、いっている通り、近ごろ読んだ中で、最も刺激を受けた本だった。


これは、未来に起こることを予言する本ではない。いま、現に起きている現象で、人々がまだはっきりとは認識していないことに明確に名前を付けて認識させ、それが今後及ぼす影響について解説した本だ。

そう言えば、著者の出世作;
ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略
もまさにこのパターン。amazon を代表とするネット販売の成功から、従来のパレートの法則に反するものを「ロングテール」と名付け、世に知らしめた。

今回は、Googleを代表とするネット企業の成功から、「フリー」というキーワードを抽出し、フリーをキーワードに経済活動、経営戦略を読み解くということをした。


この「フリー」戦略は、いまだに反論もある「ロングテール」と同じく、いやそれ以上に異論反論疑問がつきまとう。

それは、著者も分かっているので、「フリー」の歴史を20世紀初頭のジレットのひげ剃りから紹介したり、さまざまな「フリー」形態の分類、採用事例、さらには「フリー」に対する代表的な14の反論に対する反論まで載せている。

そのため、話しがあちこち分散して、網羅的になってしまっている点はあるが、それがそのまま「フリー」の多様な面を表しているのかもしれない。


でも、個々のエピソードを読んでいると、思い当たる例がすぐ浮かんできたりして、抜群に面白い。

例えば、マックの無料コーヒーとか、Google Adwords の無料お試し券、駅前で配ってるティッシュ、民放TV などなど。

それらを、「フリー」というキーワードで見直すと別の面が見えてくるのは新鮮だった。


でも、「フリー」戦略を最も活かしやすいのが、デジタルな世界。
著者はそれを「ビット」と「アトム」の違いと呼んでいる。

そして、著者は無料のルール、フリーミアムの戦術、フリーを利用した50のモデルを挙げている。

「無料のルール —潤沢さに根ざした思考法の10原則」(p.322 巻末付録1)
1.デジタルのものは、遅かれ早かれ無料になる
2.アトムも無料になりたがるが、力強い足取りではない
3.フリーは止まらない
4.フリーからもお金儲けはできる
5.市場を再評価する
6.ゼロにする
7.遅かれ早かれフリーと競いあうことになる
8.ムダを受け入れよう
9.フリーは別のものの価値を高める
10.希少なものではなく、潤沢なものを管理しよう

「フリーミアムの戦術」(p.326 巻末付録2)
1.時間制限
2.機能制限
3.人数制限
4.顧客のタイプによる制限

「フリーを利用した50のビジネスモデル」(p.332 巻末付録3)
1.直接的内部相互補助
2.三者間市場あるいは市場の”二面性”
(ある顧客グループが別の顧客グループの費用を補う)
3.フリーミアム
(一部の有料顧客が他の顧客の無料分を負担する)

(4.非貨幣市場;贈与経済、無償の労働、不正コピー)(p.40)

ちなみに、
「フリーミアム」だったマックの無料コーヒー - 記者の眼:ITpro
のマックの無料コーヒーはフリーミアムじゃなくて;
1.直接的内部相互補助
(コーヒーは無料。ハンバーガーは有料)
だと思うけど

・livedoor Blog が無料で利用できるのは;
2.三者間市場あるいは市場の”二面性”
(バナー広告やGoogle Adsense広告からの費用負担 )
3.フリーミアム
(一部の livedoor Blog PRO以上の有料会員が、他の livedoor Blog FREE の無料会員分をの費用を負担する)
のハイブリッド・モデルでしょうね。


また、フリー経済の最先端として、中国とブラジルを取り上げている(p.264)。そこでは、普通ネガティブな側面で取り上げられる、ソフトウェア、音楽CD、ブランド品の不正コピーを最大化戦略ととらえ、そこからどう利益を上げるかという話しはおもしろい。

その他にも、おもしろいエピソード満載。

以下、気になったキーワード;

・ビット経済(p.22)
ひとたび何かがソフトウェアになると、それがかならず無料になる

・今日のもっとも興味深いビジネスモデルは、無料(フリー)からお金を生み出す道を探すところにある。遅かれ早かれ、すべての会社がフリーを利用する方法や、フリーと競いあう方法を探さざるをえなくなる。本書は、その方法について記している。(p.24)

・不正コピー(p.42)
オンラインで配信される音楽:製品が無料になるのは、ビジネスモデルのあるなしではなく、純然たる経済的重力に由来する。

・民間がコントロールする原材料(穀物と原油を含む)の価格は、長期的に見て上昇しない(サイモン)(p.67)

・魅力的利益保存の法則(p.72)
コモディティ化した商品は安くなり、その価値はよそへ移っていく(p.74)

・ペニーギャップ(p.81)
1セントでも値段がつけば、消費者は選択を迫られるので、手を止める

・デジタル市場(p.98)
複製をつくる限界コストがゼロに近いときに、フリーをじゃまする障壁はほとんどが心理的なものになる。

・デジタル世界の制作者のほとんどは、遅かれ早かれフリート競いあうことになるだろう。(p.98)

・毎年価格が半分になるものは、かならず無料になる(p.100)

・セーの法則(p.124)
供給はそれに等しい需要をつくる

・情報はフリーになりたがる(p.125)

・最大化戦略(p.163)

・作家の敵は著作権侵害ではなく、世に知られないでいること(オライリー)(p.215)

・ダンパー数(p.219)
個人で維持できる人間関係の限界数は、150人

・ベルトラン競争(p.227)
競争市場においては、価格は限界費用まで下落する

・潤沢な情報は関心の欠如をつくり出す(サイモン)(p.238)

・あらゆる潤沢さは新しい希少性をつくり出す(p.238)
職場で無料コーヒーを好きなだけ飲めることで、よりおいしいコーヒーの需要を呼び覚まし、喜んでそれに高い料金を払う

・マズロー・マズローの欲求段階説(p.238)
「人はパンのみにて生きる、というのはまったく正しい。パンがほとんどないときには。だが、パンが豊富にあり、いつも胃袋が満たされているならば、人間の欲求はどうなるだろうか?
すぐに別(高次)の欲求が現れ、生理的空腹に代わってその肉体を支配する。」
1.生理的欲求
2.安全の欲求
3.愛と所属の欲求
4.承認の欲求
5.自己実現の欲求(最上段)

・非貨幣経済(p.240)
注目経済(ページランク、リンク)
評判経済(トラフィック)
贈与経済

・私たちが報酬なしでも喜んですることは、給料のための仕事以上に私たちを幸せにしてくれる。マズローがすべての願望で最上位に置いた自己実現. . . それが仕事でかなえられることは少ない。(p.251)

・自然は命をムダにする(p.255)
タンポポの考え方




著者は、この本の出版に先立って、無料版を net で配布した。
自らの主張を実践した訳だが、結果、大きな話題を得、本もベストセラーになった。見事、フリーから利益を上げたのだ。
(日本語版でも、同様に無料版が人数限定で net で配布された。)

この本を読むと、私が無料でブログを書き続けている理由というのも、自己実現の欲求と非貨幣経済の注目(ページランク、リンク)、評判(トラフィック)を得るためと、改めて説明できる。


さて、これを読んだ人はみな、自分の仕事に置き換えて考えるだろう。自分の仕事にフリーをどう取り入れるか、フリーとどう戦うか。

しかし、フリーから利益を得るのはやはり難しい。
著者もいっているように、youtube、twitter はまだ利益を生んでいない。日本でも、ニコニコ動画はまだ黒字になっていない。

これからの事をいろいろ考えさせてくれる意味で、まれにみる一冊!


〈関連記事〉
FREEMIUM HACKS!!:なぜ“無料”だと最高品質になり得るのか
―国内ネットビジネスのフリーミアム戦略とは

 - 誠 Biz.ID

アインシュタインはフリーミアムを笑うか:Biz.ID Weekly Top10
- 誠 Biz.ID:


フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略フリー~〈無料〉からお金を生みだす新戦略
著者:クリス・アンダーソン
販売元:日本放送出版協会
発売日:2009-11-21
おすすめ度:4.5
クチコミを見る


ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略ロングテール―「売れない商品」を宝の山に変える新戦略
著者:クリス アンダーソン
販売元:早川書房
発売日:2006-09
おすすめ度:4.5
クチコミを見る